ワンピース 劇場版 オマツリ男爵と秘密の島

あーこれは評価が分かれたのもわかるなぁ。これ見て思い出したのが「るろうに剣心」の追憶編と星霜編。別にできがどうのこうのの話ではなくて、少年誌に収まりきれなくなった原作のテーマを抽出して話を作ったという意味で。

今回は、「海賊王になるんだ!」というルフィの絶対に折れない信念の戦いではなくて、強固に結びついた仲間の絆がメインの話。オマツリ男爵の喪失そのものがテーマとなっている。

後半になるにつれ、子供が見たらトラウマになるんじゃないかと思うくらい、怖いシーンや恐ろしい場面が出てくる。正確には前半から、いや最初の飛行機雲(これは船の航跡なんだけど)から嫌な予感はヒシヒシと感じられる。そして最後のルフィと男爵の戦いがワンピースらしいバトルとならず、カタルシスといったものからは遠い所でこの物語は幕を下ろす。

ここになんとも言えないもどかしさみたいなものを感じてしまうのは、ルフィ海賊団にも同じものが内包されているからなんだろう。いくらルフィが強くても、いくら仲間の絆が強くても、そこは人間同士であり、各々が目的をもった他人だという事。つまりはこれ越えなければいけない困難とは多少色が違い、仲間といった絆のなかに内包された痛みや寂しさなんだと。実際この映画の中で起こった痛みは他人から、つまりは男爵から与えられた痛みなのでルフィはそれを返す事が出来たのだけど、では現実ならどうだ?と。

だからこそ今回、ルフィは必要にその痛みに晒され耐えることを強いられる。たった一人で全てに耐えることを強いられる。そして全てが終わった後、島での記憶がない仲間たちが帰ってきて、いつもと同じようにルフィは笑う。全てを呑み込んだ上でルフィはただ笑う。

実に見事に主人公であるモンキー・D・ルフィとルフィ海賊団の絆を切り取って見せていると思う。中盤は90分という尺の長さを感じてしまう場面もあれど、原作とはちょっと違う魅力と細田守テイストの両方を楽しめる秀逸な出来で十二分に満足させてもらった。